能登かきができるまで
種牡蠣
現在のところ、瀬上水産では三種類の種牡蠣(たねがき)を七尾湾の西湾海上で養殖しています。
一つは広島産の種牡蠣、二つ目は三重産、そして様々な種牡蠣がここ七尾湾で生育し自然繁殖した地種です。
海の状況は毎年少しずつ変化し、大まかな変化は約10年毎に訪れ、ワインの作付けのように毎年出来上がりが違ってきます。
最近では「魚種交代」という言葉で表現されますが、その海域に生息、または回遊してくる魚も年々変化しています。
以前いなかった魚介類が定着すようになったり、逆に毎年当たり前のように獲れていた魚がいなくなってしまったりと、海の中の環境は陸地以上に大きく変化しているのです。
そのような状況の中で、用途に応じたベストなものをチョイスし、料理人が求めるサイズや食味を、収穫のタイミングも含めたご提案ができるよう、日夜研究を続けています。
牡蠣の赤ちゃん(稚貝)
海中に放卵された牡蠣の幼生は段階的に成長し、海中を浮遊しながら他の貝殻や岩など、硬いストラクチャーに活着します。
この性質を利用し産卵期にホタテの貝殻を海中に吊るすことで牡蠣の稚貝を活着させ種牡蠣を作ります。
近年では七尾湾内で野生化した「地種」での養殖が成功していますが、放卵から漂流までのプロセスが年によっては短期間で終了してしまうため、まだまだ全体需要に応えられる生産数は確保されていません。
七尾湾の環境にも適合し、成長が早くダメージにも強い地種は、今後活躍のステージを広げていくでしょうし、瀬上水産でも地種を使った牡蠣養殖に今後は注目していきたいと考えています。
少し細長い形状をしている三重産の種、丸みを帯びた広島産の種、そして地種はその中間的なティアドロップ型の外観が特徴となります。
種牡蠣の抑制
種牡蠣は初期段階では比較的プアな条件の場所で待機させます。
環境の良い場所で一気に成長を進ませるため、いわゆる抑制作用の一環として、ギュウギュウ詰めの状態で吊るされます。
ここである程度生育が進めば、種牡蠣の間隔を広げるよう本吊りのロープに移し替え、潮通しの良い沖の棚に移動し、さらなる磨きをかけていきます。
沖での育成
栄養分の多い河口域で成長した若い牡蠣を、芳醇で甘味のある身に進化させるため、潮通しの良い沖に吊るし直します。牡蠣は成長の過程で大量の水を入れ替える生き物で、水の素性がそのまま味に反映されます。
沖合の中でも潮目にあたる、水の通り道に牡蠣棚を配置することが、良い牡蠣を育てる条件となります。
牡蠣の収穫
その年の育成状況を見ながら、収穫するタイミングを決めます。
七尾湾西湾の中でも、場所によって塩分濃度や透明度も違いがあり、例えば同じ列の棚でも東と西、棚の先端と真ん中では牡蠣の成長度合いに違いがあります。
ただ順番に棚を上げるのではなく、育成状況を見ながら収穫のタイミングを決めることは、漁業というより、むしろ農業に通づるものがあります。
季節の移ろいを感じ、自然と向き合いながら、牡蠣の気持ちになって、その時最善の牡蠣を水揚げしています。
むき身への流れ
陸揚げをするとき、縄に連なった牡蠣を分解し、回転式のドラムに通しながら海水スプレーによって汚れを落とします。
むき身の場合は、この洗浄された牡蠣を「むきこさん」または「うちこさん」と呼ばれる熟練した専門の作業者が殻から身を取り出し、生きたまま「滅菌海水」で蓄養します。
塩分濃度をコントロールされた滅菌海水の中で過ごした牡蠣は、殻の中で過ごす状態と同じように呼吸をし、綺麗な水を吸い込み体内の不純物を吐き出しながら交換を続けます。
一晩以上、滅菌海水で過ごした牡蠣は、細菌もウイルスも除去された状態で、出荷を待ちます。
殻付きへの流れ
むき身の牡蠣と殻付きの牡蠣は、製造工程が少し違います。
実際、殻付きの方がそのままの姿で皆さんの前に出てくるので、殻を開けて向く作業がプラスされているであろうむき身の方が手間がかかっていると想像される方が自然だと思います。
しかし、牡蠣養殖の世界では、牡蠣を棚から収穫してすぐに商品として出荷できる訳ではありません。
むき身の場合は、付いていた殻の形跡がないので、どんな殻に身が収まっていたか知る由もありませんが、殻付きの牡蠣はそういうわけには参りません。
外側の殻と中の身が、しっかりバランスのとれた大きさで収まっていないと「騙された!」という気持ちになってしまします。
ここはやはり人間の心理であり、当然のことだと思いますが、これが「殻つき」にはあって「むき身」にはないクレームなのです。
もちろん、時期によっては殻と身のバランスがバッチリ取れている時期(シーズン後半)もあるのですが、特にシーズン前半は殻付きの牡蠣を出荷することは、それ以前の大切なプロセスを遂行する必要が出てきます。
それが殻付きを籠に入れて再び海に戻す「吊るし変え」という作業です。
自然が生んだ不揃いなものを整理整頓
その後、テーブルの上で人間の目による「選別」を行い、殻の長さ、重量、殻の外観、などで分類を行います。
この作業には熟練を要し、そして牡蠣のクオリティを決定する上で、選別作業は最も重要な位置を占めることになります。
安心・安全な食品としての仕上げ
沖合から引き上げられた牡蠣は大きさ別に分別され、専用の機材で洗浄された後、ミクロン単位のフィルターで濾過、紫外線UVランプで照射した「滅菌海水」に浸され「生食用」の安心・安全な牡蠣として出荷されます。
瀬上水産では、全ての牡蠣が「生食用」として販売されます。